ケン・ウィルバーの”fundamental”と“significant”を巡って

  • 2019.12.15 Sunday
  • 21:11

こちらは、2019年12月12日配信のメールマガジンに前半を掲載したコラムの全文です。

 

***

 

今回はちょっと趣向を変えて、ケン・ウィルバーの発達段階論における用語解説のようなものを試みたいと思います。

 

メルマガ読者の皆様にはおなじみと思いますが、ケン・ウィルバーはアメリカの思想家であり、私たちが実践しているILP(Integral Life Practice:統合的生活実践)の理論的枠組みを作った人。彼の「意識の発達段階論」は、最近、『ティール組織』という本の中で一般の方にもわかりやすい形で提示され、再び注目を集めました。

 

「意識の発達段階」には、色々な解釈があるかと思いますが、私は「自分にとって世界がどのようなものとして見えるか、体験されるか」というものの見方の段階的な発達、というところに重点を置いて考えることが多いです。ものの見方がより複雑になり、包括的になっていく過程ですね。

 

日本でインテグラル理論、そして『ティール組織』が受容されていく過程で、ある大きな誤解が生まれたのではないかと最近感じることがあります。それは、「高次の発達段階のほうがより“善”である」という考え方。10年以上前の勉強会のノートなどを見ると、その点にも注意を払って紹介されているのですが、広まっていく過程で解釈の単純化が起きてしまったのかもしれません。非常に誤解しやすいポイントなので、ウィルバー自身の著書に立ち戻って考えてみましょう。

 

(「低次」「高次」という言い方にも注意が必要と思うので、それは後で述べます)

 

ウィルバーは「低次」と呼ばれる発達段階はより”fundamental”であり、「高次」と呼ばれる発達段階はより“significant”であると述べています(主著”Sex, Ecology, Spirituality”:日本語版タイトル『進化の構造』)。日本語では前者は「基底性」、後者は「有意性・重要性」と訳されていますが、どういうことを指しているのか訳語を見ただけでは理解が難しいですね。

 

それでは、英語の持つニュアンスを探るために、英英辞典を調べてみましょう。

 

まず“fundamental”について。

私の大好きなコリンズ・コウビルド英語辞典はこのように説明しています。

 

  1. You use fundamental to describe things, activities, and principles that are very important or essential. They affect the basic nature of other things or are the most important element upon which other things depend.

物事・活動・原則が非常に重要で欠くべからざる(essential: most important and basic)なものを説明する時に”fundamental”を用いる。こういう物事・活動・原則は他の物事の基本的な性質に影響を与えたり、他の物事がよって立つ(rely on)最も重要な要素であったりする。

 

2. You use fundamental to describe something which exists at a deep and basic level, and is therefore likely to continue.

「非常に深く、基本的なレベルに存在し、それゆえに継続すると思われるもの」を説明するのに”fundamental”を用いる。

 

3. If one thing is fundamental to another, it is absolutely necessary to it, and the second thing cannot exist, succeed, or be imagined without it.

ある事柄が他にとって”fundamental”という時、後者にとって絶対に必要か、後者は前者なしには存続することができない、うまくいかない、あるいは想像することができない。

 

こういう言葉の意味を踏まえて「“低次の“発達段階がより“fundamental”である」ということはどういうことかと考えると、「早期から存在し、人間の存在にとってより根底的・根幹的であり、後に発現する段階を支えており、それがなければ次の段階が発現しないという意味で重要」と解釈することが可能のように思います。

 

さて、それでは“significant”とはどういう意味でしょうか。


 

コリンズ・コウビルドには余り詳しい説明が載っていないので、他の辞書にあたってみます。

 

メリアム・ウェブスター辞典による定義−having meaning:意味がある

ケンブリッジ辞典による定義−important or noticeable: 重要、あるいは明白である・認識できる・すぐにわかる(noticeable)

 

他の辞書でも余り詳しい説明はありません(笑)。

 

もう少し似ている言葉からイメージを掴んでいきましょう。皆さんは、「統計的に有意である」という言葉を聞いたことはありませんか? この「有意」は英語でいうとsignificance (significantの名詞形)であり、「確率的に偶然とは考えにくく、意味があると考えられること」を指します(Wikipedia)。

 

これらの情報を踏まえて、発達段階論における”significant”を考えると、「“意味のある違いがある”という意味で重要」という意味になりそうです。

 

どちらも「重要」なのです。でも「重要」の意味合いが違う。そういうことを踏まえて発達段階論を理解していったほうがいいのではないか、というのが私の考えです。

 

さて、「低次(lower)」「高次(higher)」についてですが、日本語ではとかく「低俗」「高尚」というように、「高」「低」という言葉の中に既に価値判断が含まれている言葉が多いように思います。「高学歴」「高身長」もそうですね。無意識に価値判断が含まれる用例が多い。でも元々は、物理的な位置関係を表す言葉です。

 

英語の場合もそうですね。確かに”high”の説明・同義語として”great”(偉大な)もあるのですが、コリンズ・コウビルドでそれが出てくるのは4番目。最初に出てくる、すなわち最も基本的な意味は位置関係にすぎないのです。だから、lower, higherという非常にシンプルな言葉であっても、その人がどれだけの価値判断をその言葉に込めているかは、原文を読み込まなければ分かりません。発達段階を描写するのにhigher, lowerという言葉を使うのはウィルバーに限りません。今後、他の発達心理学者の文献を読む時も気をつけて読みたいと思っているポイントです。

 

ウィルバーについて言えば、”Sex, Ecology, Spirituality”を執筆していた頃は、あらゆるものを網羅しつつも非常に簡潔で整った、例外が少ない理論を作るのに拘っていた印象があり、またシンプルな言葉を選びすぎていて説明が足りていないと感じることが時々あります(実際、“Sex, Ecology, Spirituality”を最初に読んだ時は「工学の教科書みたいだなあ」と感じたものです。彼の初期の著作、あるいは”One Taste”, “The Simple Feeling of Being”などといった瞑想的な著作群とはずいぶん趣が異なります)。

 

なので、自分としては、“lower stages of development“は「人間の成長においてより早期に発現する、よりシンプルな世界認識の段階」、”higher stages of development“は「人間の成長においてより後期に発現する、より複雑で包括的な世界認識の段階」と捉えています。

 

そうしてみると、「発達段階論」が今までとは少し違ったように見えるかもしれません。語学面からの考察ですが、この一考察が皆さんの思考のヒントになれば幸いです。 (文・千葉)

コメント
コメントする








    

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< March 2020 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

  • 岐阜フラッグアート展に参加!!
    ARTemis (10/07)
  • 岐阜フラッグアート展に参加!!
    彩佳 (09/30)
  • NPO法人「にじの絵のぐ」発足記念ワークショップご案内
    ARTemis (09/25)

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM